今回は心理機能のエミュレーションについて解説する。これは人間関係において避けることができない要素である。大半の人々は、自分の本質を貫くよりも、惰性、人の気持ち、社会的評価、何らかの利益などを口実として、合わない環境にしがみつき、好きでもない人々の気分を良くすることで一生を終える。私はこれを推奨しないが、読者の大多数はこういった境遇にあると思われるので、今回はその話である。

特に職場において、このテクニックを使ったことのない人はいないだろう。これは心理機能のエミュレーション、または認知的エミュレーションと呼ばれるものである。これは限られた時間内で心理機能をエミュレーションしたり、特定のタイプを模倣することである。人々と良い関係を築いたり、目標を達成したりするために、他人に合わせて自分の性格を調整し、相性が良いように見せかける。これをソーシャルエンジニアリングと呼ぶ人もいれば、操作と呼ぶ人もいる。結局のところは、子供時代のごっこ遊びの延長である。

誰かがこれを利用している場合、その人物が信用に値するか考えなければならない。心理機能の互換性、およびタイプ間の関係について考えるならば、これは重要な点である。互換性を知れば、他のタイプとどの程度、相性がいいのか知ることができる。そうすれば仕事や恋愛、子育てなどで人間関係を最適化することが可能になるだろう。しかし、本格的にタイプ関係に踏み込む前に、エミュレーションについて知っておいてもらいたい。

ここに8つの心理機能がある。このお馴染みのアルファベットたちを組み合わせると、次のようなリストができる。

Ne+Si=Ni

Se+Ni=Si

Ni+Se=Ne

Si+Ne=Se

Te+Fi=Ti

Fe+Ti=Fi

Fi+Te=Fe

Ti+Fe=Te

この法則に従って、人々は特定の心理機能を模倣し、それを偽装することができる。ただし、その模倣や偽装は長期的に行うことはできない。我々の心は自我に留まっていたいので、それには大きな精神的エネルギーを費やす。

例えば、ISTPの自我は、無意識である影に移行するとエネルギーを消耗する。潜在意識や超自我も同様である。快適な自我からぬけ出して、他の領域に移行することは精神エネルギーを消費する。無意識が外向的なのは、内向的な自我を持つためである。

他の人々の近くに居れば、外向的なタイプは精神エネルギーを得る。内向的なタイプは、一人で集中して何かをすることで精神エネルギーを得る。人々と関わる時間が長くなると、エネルギーが枯渇してしまうので、孤独にならなければならない。外向的な人間にとっては、その逆である。どちらにしても、それはエネルギーの循環である。エネルギーがなくなると疲れ、自分のタイプに戻る必要がある。

この精神エネルギーは、一日を通して心の様々な側面に移行することによって変化する。私のTeは無意識にあるので、一日で使える時間は限られている。例えば、仕事中に潜在意識や無意識に移行していると、疲労が溜まり、家に帰ってから別人のようになる。それは性格が変わったわけではなく、自我に戻っただけである。「仕事中の姿が格好いい」と思って結婚すると、「こんなはずじゃなかった」と思う羽目になる。

それはどんな社会的状況でも起こり得る。自我の外で何かをする場合、精神的エネルギーが消費されることが第一のポイントである。これは心理機能のエミュレーションも例外ではない。エミュレートするのは、自分の自我にない機能と相場が決まっている。私はTiヒーローやNe-Siを模倣する必要はない。模倣の対象となるのは下位4つの機能だが、本当に偽装する必要があるのは底辺にある2つの機能である。私の場合は、SeとFiがこれにあたる。

SeトリックスターやFiデーモンを補うために、機能エミュレーションが役に立つ。自分が伝えたい感情について一生懸命に考え、労力を費やし、道徳に興味があるように見せるためには、多大な精神エネルギーが必要である。例えば、ここにISTPの上司とENTPの部下がいる。ENTPがTeクリティックで上司を馬鹿だと思ったとしても、それを伝えるのは無謀であろう。代わりに、ENTPはFiをエミュレートする。劣等Feは他人がどんな気分であるか不安を抱いている。Tiヒーローに挑戦するより、弱点を攻める方が理に適っている。

だからENTPは道徳的に「これは良くないと思う」と演技すればいい。そしてFiはTeとリンクしているので、良くない理由を列挙していく。「ISTPの○○とxxと△▼のせいで、嫌な気分になった」と被害者ぶれば、ISTPを弱体化することができる。ISTPのSeとFeに「不快になった」と訴えることで、ISTPの自我は「自分が間違っていたかもしれない」と悔い改める。これは論理とも真実とも関係のない、感情の領域である。ENTPはISTPを操作して、Neトリックスターが知覚できない影響を及ぼすため、Fiユーザーの振りをする。

ISTPにとって、Neの形而上学やビジョンは現実ではない。彼らにとって、問題は目の前に存在するものだけである。だから目の前の現実によって気分が良くないことを訴えなければならない。「これは資金がかかるので、道徳的に良くないと思います。システムを変更して、作業人数を増やさないといけません」。必要に応じて、気分が良くない言い訳を増やしていく。そしてSeユーザーには、リスクの話をするのも効果的である。内向的感覚は安心したい。つまり、この種の局面ではINFPかENFPの振りをすればいい。

別の例では、INFJと友人関係にあるとする。INFJはFeペアレントで、私を道徳的に行動するように仕向けようとする。「私が人間として正しい在り方を示してあげましょう」というわけである。彼らはTeトリックスターなので、彼らから見て非道徳的な言動を私が取った理由がわからない。そんな彼らに私のFiデーモンが応えるには、INFJの個体ごとに道徳の定義をインプットする必要がある。

INFPやENFPのようなFiユーザーであれば、そんなことは問題にならないだろう。彼らは自分の気持ちを常に知っている。私も彼らを見習わなければならない。人間関係では、成熟すればするほど、規律と意志の力、つまりSiとNiで精神的コントロールができるようになり、状況に応じて自分を変化させ、人々を魅了することで良い結果を得られるようになる。

人々と関係を持つ時は、次のことに留意しなければならない。まず自分の心理機能を特定し、自分に近い人や日常的に接触する人々の心理機能を特定する。そして相手に応じて、どの心理機能から話すか変えるのである。相手がFeユーザーの場合、自分の感情の話をする。Fiユーザーの振りをして、「あなたが話していることについて、私は気分が悪い」「そのアイデアが気に入った」と言えばいい。本当はどうでもよいことでも、「相手の気持ち」を気にするなら、そうするべきである。人の気持ちを気にするほどに不誠実になるとは、皮肉な話ではないか。

「成熟」して「賢明」な人間は、仲間と関係を築くために何らかの形でエミュレーションを習得することが重要だと理解している。嘘つきで不誠実であっても、目的は手段を正当化する。いつも思っていることを共有している人間、いつも感じていることを共有している人間は、社会から疎外される。INFPが信念の核となる哲学を共有しても、社会は理解しないだろう。

つまり、自分の本質に合う環境を見つけ出す努力をしない人間は、周りの人々に合わせてエミュレートしなければならない。不誠実でも、エミュレーションを学び、人々と良い関係を築き、自分が扱われたいように他人を扱う。自分自身のように隣人を愛する。その模倣は「他人の気持ち」のために努力しているので、あなたは良い人間であり、嘘つきや不誠実ではない。あなたは個人的な利益の為に人を操作しようとしているのではなく、他人の気分を良くするために操作しているのである。これを行うには多大な精神的努力が必要だが、人間関係を良くするためには、多少の不誠実はやむを得ない。

このような「良い人間」に何が起こるか気になる人は、キャロライン・メイスの「7つのチャクラ」を読んで欲しい。S型の人々には抽象的すぎるかもしれないが、良い人間であることに苦しさや体調不良を感じている人にはヒントになるだろう。