この記事では主に理論的背景を説明する。読まなくても全体の理解に支障はないと思うが、どんな理論を参考にしたのか気になる人の為に掲載しておく。


まずこのサイトに掲載している記事は全てMBTI・エニアグラム・ソシオニクスなど既存の類型論を参考にしているが、正式な理論とは異なる。このように独自解釈・独自要素を取り入れた理論を総称して「ネオユング」と呼ぶ。


基本的に海外のネオユングはユングベースで理論を作っている。「ネオ」と言っても完全にオリジナルのものを作ることは難しいので、既存の理論を組み合わせることになる。海外でよくあるのはMBTIとソシオニクスの融合で、馬鹿のひとつ覚え「またこれか」とうんざりするので、別の要素を取り入れたいと思ったが、問題は何を取り入れるかという話になる。

統合心理学


統合心理学とはイタリアの精神科医ロベルト・アサジオリが提唱した理論で、初期はフロイトから学んだが、後に自分の理論を作ることになったという経歴はユングと似ている。アサジオリの考え方はユングに近く、ユング自身も「『精神分析』があるならば、『同様の法則に従って将来の出来事を生み出す精神統合』も存在しなければならない」と述べている。アサジオリは精神統合の目的として、調和の取れた内面の統合、真の自己実現、他者との適切な関係を挙げている。彼は精神のモデルを次のように表した。

1.下位無意識

2.中位無意識

3.高位無意識

4.意識の領域

5.意識的な自己、「私」

6.高次の自己(超意識)

7.集合的無意識

統合心理学の特徴として、無意識が三層に分かれている点が挙げられる。これはアサジオリの無意識の捉え方に由来しており、「僕はじめじめした地下室じゃなくて日の当たるバルコニーがいいな」と言ったとか(どうでもいいが、「この男とは気が合わなそうだな」と思った)。


ユングと統合心理学は無意識、シャドウ、元型など同じ概念を使っているが、解釈は異なる。また、「サブパーソナリティ」と「意志」がポイントになる。
日本ではあまり知られていないが、実はアサジオリも心理機能の概念を取り入れている。ただし彼の理論では心理機能は4つではなく7つになる。7つの機能はそれぞれ思考、感情、直観、感覚(ここまではユングと同じ)、想像力、願望、意志を指す。アサジオリの理論を基に、ケネス・ソーレンセンは7つのタイプ理論を考案した。彼の理論では基本機能が意志、思考、感情となっており、この三つの組み合わせから合計7つの機能が成立する。

Hypostatic Model


統合心理学はユングに輪をかけてスピリチュアルっぽいが、こちらは普通の(?)心理学モデルになる。直訳すると「位格モデル」という意味になる。「位格」とは他者に対して区別される主体、自己が成立する個物のことを指し、人に対しては人格という言い方がされる。よく「実生活に活用したい」と言いながら、何故か心理学ではなく類型に拘る人々がいるが、類型を活用するには問題がある。仮に相手のタイプがわかったとしても、その相手に実際どう対処すればいいか、という観点から見ると参考にならない。精々「T型だから論理性を重視して話す」などが関の山だろう。


しかし類型にも良い点がある。説明にストーリー性があり、わかりやすくて面白い。「INTPは論理的思考に優れ、類まれな問題解決者」と言われると、本当にそんな気がしてくる。汎用性が高いのは心理学の方だが、説明が味気なくて面白みに欠けるし、個々の内面には対応していない。だからこの際、両方を合体すればいい。下の図はモデルの一部になる。

このモデルの趣旨は、様々な心理学の理論をひとつに統合して、人格の色々な側面を説明することにある。ただ要素としては面白いものもあるが、同じ方向性でもっといい理論がある。

インテグラル理論

インテグラル理論はケン・ウィルバーが考案した意識の統合研究となる。ウィルバーは自然科学や社会科学、芸術や人文学など主要な領域を統合し、「意識研究のアインシュタイン」と呼ばれた。その包括性の為、35以上の異なる分野で扱われ、個人の発達・統合を目指して活用されている。日本でも近年、再注目されており、書籍が相次いで出版されている。

インテグラル理論はAQALというフレームワークを用いて表される。この枠組みには象限・レベル・ライン・ステート・タイプという5つの要素が含まれる。各要素の説明は以下のようになる。

象限:物事を捉える4種類の視点

レベル:人間の自我が発達する段階

ライン:自我の能力領域(個々によって異なる)

ステート:意識や身体の状態(一瞬一瞬の変化)

タイプ:人々の性格や行動傾向の類型

インテグラル理論はこれらの要素を全て包括する。これらの要素に優劣はない。人間は内と外の視点、科学とスピリチュアル両方を必要としている(ただし「ウィルバーは自分に都合のいい理論だけを採用している」という批判もあるし、この理論が不完全なことは本人も認めている)。この理念は次の言葉に集約されているだろう。

全ては正しいが、部分的である。

ケン・ウィルバー

この理念を類型にも適用する。全ての類型は「人間の側面をその類型なりに表している」という意味で正しいが、部分的である。これをひとつに統合して、自己成長・人間関係に有益な情報を提供することを目標とする。