前回は外向的感情、Feについて紹介した。今回はFeとペアになる内向的思考、Tiの話である。Tiは判断と意志決定に関わる4つの機能のひとつになる。ある意味でTiとは最も重要な機能である。ユングは自分を内向思考型だと言っていた。あれは何故かと言うと、初期の構想では内向思考型と外向感情型しか存在しなかったためである。実際は、「いや、お前は電波だからNiだよ」と思う人間が多かったので、「ユングはTiかNiか」という論争が発生したが、ユングの言う内向型とはTiのことだったのである。私は初回にユングをNiと言ったが、あれはビーブの発言が由来である。つまり、ビーブもユングを電波だと思っているのである。
自我にTiを持つ人々、INTP、ISTP、ENTP、ESTP、ENFJ、ESFJ、INFJ、ISFJをTiユーザーと呼ぶ。内向的思考は個人の論理的判断である。つまり、個人的な真偽の判断を行う。集合的な真偽の判断を行うのがTeである。外向的な機能は何が正しくて何が間違っているか、多数決で決める。部屋の中にいる10人中6人が「正しい」と思えば、それは正しい。一方、Tiは部屋の中にいる10人の意見それぞれに真偽の判定を行う。
これがFeとFiだと、どうなるか?Feは集合的な善悪の判断を行う機能である。「皆が嫌な気分になる」ことを悪とするのがFe、「私が嫌な気分になる」ことを悪とするのがFiである。Feユーザーは、「私が嫌な気分になる」ことを「皆が嫌な気分になる」ことであるかのように語るのが得意である。Teユーザーは「本当は理解していないこと」を「わかるけど合理性のために無視している」ように偽装するのが上手い。
Tiユーザーは自動的にFeユーザーになる。この二つの機能は軸で結ばれているからである。Tiヒーローなら劣等Fe、FeペアレントならTiチャイルドといった具合に、人々は心理機能の法則に従って、「タイプ」という集合的な存在に分類される。同様のことがTeとFiにも言える。だからTeユーザーであると同時に、Tiユーザーであることはできない。しかし、これらの機能は人の精神内でも、個人間でも相互に影響し合っているのである。各タイプをソーシャルエンジニアリングするには、理解しておくべき仕組みが沢山ある。
ここでひとつ言っておかなければならないが、心理機能とは意思決定や情報収集のために脳や心が同調する周波数のようなものである。ラジオをイメージしてもらえばわかりやすい。ここで言ったのは、定義を気にするTiユーザーへの心遣いである。
思考と感情はリンクされているため、思考に対しては常に感情的な反応が付き纏う。私が真実を話そうとすると、「でも、あの人が嫌な気分になっちゃう」と言い出す人間が現れる。「あの人あんまり好きじゃない、言い方が良くないから」という倫理や好き嫌いの話になるのである。あるいは、「私はこのデータを見せられて不愉快な気分になった」という場合もあるだろう。データを見せるなら気分のいい時にしろ、ということである。ちなみにユングの言う「感情は情動ではない」という話も、「F型は感情的じゃありません」というしょうもない話にすり替えられているが、本来はそういうことが言いたかったわけではない。簡単に言うと、感情とは物理学で言う「測定」の役目を果たす機能である。感情については別の機会にまた取り上げる。
ここで再び「どう思いますか?」の話である。次のシリーズでは人を判定する方法について紹介するが、それはそれとして、人が話す言葉から心理機能を推測することはできるだろうか。誰かが倫理的な判断を下し、別の誰かが「いや、そうは思わない」と言う。これは「そうは感じない」と言っているわけではない。人々の言動は心理機能の複合作用と捉えることができる。つまり、判断機能と知覚機能の混合、あるいは連動である。
ここでTiユーザーたちの紹介に移る。彼らは決して愉快な人々ではない。例えば、ESTPは既存のルールや構造を破壊することが趣味である。しかし彼らは現実主義者なので、自分の好き嫌いが現実に何の意味も及ぼさないことは心得ている。彼らはTiによってルールの不備を突き、それを破ってみることで他の人々の反応を確認する。彼らの「ルール違反」は現実に沿ったものなので、一見すると違反していることが誰にも気づかれないことすらある。いわゆる「学校の問題児」的なESTPは二流である。一流は自分がルールを守らなくていい理由を、端的な言葉で納得させる。ESTPは既存のルールを破壊するが、ENTPは将来どんなシステムを導入するか考えることに忙しい。今現在、何が進行しているかは目に入っていない。だからいざ導入しようとすると、現実の壁に阻まれて思うようにいかないことがある。
TiヒーローであるINTPやISTPを説得するのは極めて難しい。彼らはひとつのデータだけでは納得しない。大量のデータが必要である。さらに、データを提出する人間は「データを盲信しているだけの馬鹿」ではないことを証明しなければならない。この証明がなければ、彼らは人が集めたデータを何食わぬ顔で自説の強化に再利用するだろう。実のところ、彼らの論理は彼らが思っているほど完璧ではない。しかし論破すると彼らとの関係が悪化することは避けられないので、人々はFeを使わざるを得ないのである。
彼らにとっては、真実が重要である。それが真実ならば、それについて自分がどう感じるかは問題ではない。そして、人々もそうであることを要求する。人々が現状を改善するように厳しい真実を突き付けるのが彼らの役目である。Tiは真実の炎を燃やし、軸で結び付けられたFeによって浄化される。なお、人々に対する改善は促すが、自分を改善しようとはしない。人々が彼らの真実を受け入れない場合、彼らは周囲に対して無関心になる。そしてこの状態の方が周囲は良い気分でいられるのである。ただし、FeによってTiを封印したIxTPが世界を救うことは決してない。
そもそも人間はなぜ真実を必要とするのか。ひとつの答えは、幻想に取り憑かれることを防ぐためである。私たちのほとんどは他人の考えに支配されており、それが正しいか間違っているか、有益か有害か気にすることがない。しかし、作家ソルジェニーツィンはこう述べている。
「人が悪を行うには、まず自分のしていることは善であると信じなければならない。さもなければ、それは自然法則に則ったよく考えられた行為であると信じなければならない」
アレクサンドル・ソルジェニーツィン「強制収容所群島」
私は最近これを体験した。何を思ったか、両親が実家にある物干しを私に押し付けてきたのだが、私は化学物質に弱い体質で、彼らもそれを知っている。彼らは私に悪意があったわけではない。しかし「ベランダがない部屋にこの物干しを置いたら便利に違いない」という素晴らしい思い付きに取り憑かれて、私の言葉が耳に入らない状態になっていたのである。一度受け入れて体調を崩して見せないと、彼らは自分の「善行」によって私がどんな迷惑を被っているか理解できないのである。
人間には「美しい真実」が必要なのである。Feユーザーが正義の戦士として悪に立ち向かうためには、「これは人々のための善行である」という大義名分を必要とする。あるいは「この真実によって人々は改善される」と信じ込まなければならない。しかし、現状に満足している人間にとっては、自分こそが悪かもしれない。
今回の話で8つの心理機能のうち、半分の話が終了した。Te、Fi、Fe、Ti、これらは全て判断機能である。しかし人間が意思決定するためには情報を収集しなければならない。その役目を担うのが知覚機能である。次回からは残り半分の知覚機能について紹介する。
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