前回の記事でMBTIの問題点と、タイプを判定する方法がわかったことと思う。タイプが分からない人々は大勢いる。しかし、タイプがわかっただけでは対人関係の問題は解決しない。その問題のひとつが、N型の憎き宿敵SJにどう立ち向かうかということである。せっかく独創的なアイデアを考えたのに、SJの壁に阻まれる同胞を見るのは忍びない。ということで、今回はSJを説得するポイントを紹介する。なお、ここではアイデアそのものは良いものと仮定しているが、アイデア自体がしょぼい場合もある。

SJたちが変化を拒む理由は大きく分けて四つある。「惰性」「労力」「感情的抵抗」「心理的反発」である。人は見慣れたものが変化することに抵抗感を感じる。これがどの程度の威力を持つかというと、「トロピカーナ」というジュースのパッケージが変わっただけで、売り上げが急落するレベルである。このせいでデザインを担当した会社は倒産に追い込まれた。別の例では、「フェリシティの青春」というドラマで、フェリシティが髪を切ったことにSJたちは反感を覚え、視聴率は低迷、ドラマは打ち切りとなった。「水戸黄門」や「ドクターX」がワンパターンな展開を守り続けているのは、SJたちに配慮しているのである。私は最近HNを変えていたが、元に戻した時にSJと思われる読者から喜びのコメントが来た。それくらい惰性とは強力なものなのである。

この惰性を克服するにはどうすればいいか?まずは何度も繰り返すことである。ナポレオンも「同じ主張を何度も繰り返すことで、言葉が心の中にしっかりと留まり、実証された真実として受け入れられる」と言っている。SJたちのSiが、それを果たすべき義務であると認識するまで、何度も何度も言って聞かせなければならない。一度で諦めてはならない。何度も繰り返されるうちに、まるで素晴らしい伝統のように思えてくることだろう。

SJたちと共通点を作ることも重要である。例えば、ESTJは率直な発言で相手の感情を傷つけることがある。その結果、友達がいない、人望がなくてリーダーになれないなどの悩みが発生する。同じような欠点や悩みを持つ相手には親近感を抱くだろう。今は人気者であったとしても、過去に同じ悩みを持っていれば、ESTJは相手が自分に良い経験を与えてくれることを期待する。

そして提案の際に、すぐに賛否を決定させようとしてはならない。彼らには考える時間が必要である。Seユーザーは詳細を覚えていられないのですぐに反応するが、Siユーザーは反応にタイムラグがある。すぐに判断を迫られると、彼らは自分にとって馴染みのある経験を優先する。ISTJやISFJは他人の望みを受け入れて、義務に支障が出ることを恐れている。しかし返答までに時間が与えられれば、彼らは考える。彼らの潜在意識はENxPである。彼らは自分の経験を人々の未来に役立てる機会を求めている。ただ、恐れを克服する時間が必要なのである。

次に、労力の問題がある。そのアイデアがいかに斬新で、問題解決に有効か、どうすればアイデアの良さが伝わるのか、という点に目を奪われがちだが、人はアイデアの価値よりも労力が少ないことを重視するのである。アイデアを考えた方は、労力が存在することは認識していても、その威力を少なく見積もっている。

例えば、シカゴ大学は他の名門大学に比べて出願数が少ないことに悩んでいた。プリンストン大学は2万8千件の応募があるのに対して、シカゴ大学は4千件にも満たない。教授たちは授業が厳しすぎるのではないかと思っていたが、それは関係なかった。SJたちは厳しい義務にも耐えられるように作られている。義務を嫌うNJたちがそこまで影響力を持つとは考えにくい。問題は出願方法にあったのである。

他の大学はコモンアプリケーションという方法を採用しており、学生たちは小論文をひとつ書けば、そのシステムに登録している全ての大学に出願できる。シカゴ大学は独自の出願システムを採用しており、応募するためには新たな論文を書かなければならない。シカゴ大学がコモンアプリケーションを採用すると、出願数は3万3千件まで激増した。

人間には「努力を最小限に抑えたい」という本能がある。これは言葉の使い方にも表れる。Goodbye(さようなら)という単語は、God be with ye(神のご加護がありますように)を省略したものである。この最小努力の法則により、いかに有益なアイデアであったとしても、労力を減らすことが優先される。友達になる理由は相手に魅力があるからではなく、席が近かったから、寮で同室だったから、である。同じ会社の同僚でも、席が50m離れているとコミュニケーションは殆ど無い。つまり、相手から見て「交流する際に支障がある」と思われると、その提案は受け入れられない。だからSJたちとの共通点をアピールするか、彼らと相性の良いタイプの振りをする必要がある。

感情的抵抗の問題も忘れてはならない。そのアイデアが良いものである、それ自体が感情的抵抗の原因になることがある。例えば、そのアイデアによって仕事が効率化されると、自分が果たすべき義務を奪われるのではないか、自分が義務を果たしていないと思われるのではないか、という抵抗である。ケーキミックスが売れなかったのは、行程が効率化されすぎて、「ケーキを作っている」という感情的価値が奪われたせいである。だから敢えて「卵を加える」という行程が残っている。同様に、SJたちの不要なルーチンも、一部を残しておく必要がある。それは彼らが「義務を果たしている」と実感するために必要なものなのである。

ESTJやESFJがSeクリティックによって批判してくる場合、その真意を見誤らないように注意すべきである。単にルーチンを守ろうとしているだけならいいが、あなたから力を奪おうとしている場合もある。リーダーは最も優秀な部下を仕事から外したがる。影響力を奪おうとするのである。アルファはベータを敵視する。ロバート・グリーンも「上司より有能だと思われるな」と書いている。アイデアを実行する際は、上司や有力者に脅威だと思われないように気を付ける必要がある。ESxJは自分が悪い人間だと思われることを恐れているので、本心とは別のもっともらしい理由を述べているだけかもしれない。

そして相手に労力がかかるからと言って、全てを自分一人でこなしてしまうと、心理的反発の問題が発生する。SJたちは相手の願望を満たして、自分が義務を果たしているという実感が必要なのである。「SJなんて大したアイデアを出さないだろう」と思わず、彼らも過程に巻き込むのである。そうすると彼らのSiは良い経験をさせてもらったことに満足し、それを伝統として繰り返そうとする。そして、そのアイデアに対して忠誠心が芽生える。

ISFJに対しては注意が必要である。彼らはコントロールタイプなので、闇雲に動かされることを嫌う。彼らが「説得されている」と感じると、それだけで心理的反発が発生するだろう。彼ら自身が自分で自分を説得するように仕向けなければならない。どうするかと言うと、拒絶することに心理的抵抗を感じるような質問、同意せざるを得ないような質問を投げかけるのである。

例えば、「義務を果たすことは重要ですよね?」といった問いである。相手がYesと答えたら、次は「何故そう思うんですか?」と続ける。自分の提案の中で、相手が同意できる部分を探し出して、なぜ同意するのか考えさせる。ISFJはTiチャイルドなので、自分を説得する程度の理屈は考え出せるし、なんならそれに一種の充実感を覚えるだろう。おまけにTeトリックスターなので、あなたが本当に考えていることを悟られる恐れはない。

SJたちに変化を受け入れさせる際に障害となるのは「惰性」「労力」「感情的抵抗」「心理的反発」である。彼らを説得する際には、これらを心がけてみて欲しい。彼らにアイデアを受け入れさせることができれば、それを伝統として守り続けてくれるだろう。